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本流逆流(1月5日付コラムより)
2018/01/09

 私がタクシー乗務を始めたのは1994年、関空開港の年だ。養成で二種免許を取得した。地理講習で教官が「メーターを安く抑えるのが良い運転手」と言っていたのを憶えている。会社に戻ってからの実地研修は班長に側乗してもらっての日勤3回のみ。いまにして思えば、いや、いまでもほとんどの会社はその程度なのだろうが、新人教育など他産業に較べればないに等しい。
 慣れるまではとにかく利用者に道順を訊ねるしかなかった。しでかした失敗は枚挙に暇(いとま)がない。荷物を取りにいったん車から降りる年配の男性に、何か質物を置いていくよう求めたところ、「相手の形(なり)見てもの言わんかい!」と怒鳴られたこともあった。それでも目的地に着くと料金を払ってくれるのである。
 サービスの対価を払った後に「ありがとう」と付け加えて降車する利用者も多い。23年を経ても相変わらず失敗と反省の日々だが、利用者に育ててもらってここまで来たという思いはある。利用者、運転者、事業者。この三者が互いに支え合うタクシー産業がいま崖っぷちに立たされている。
 サービスを高度化してライドシェアに対抗しようと考える事業者もいるが、白タク合法化を許せば交通空白地の住民や、生活に余裕のない庶民は安価なライドシェアを自己責任で使わざるを得ない。誰もが等しく受益できなければそれは公共サービスではない。
 運賃問題、供給過剰の是正とマッチングの改善、利用者の信頼に応えるサービスとそれを裏づける賃金・労働条件など、取り組むべき課題は2018年も山積している。タクシーの安心・安全を守り、安心・安全に責任を負わない者の参入を許さない。どちらも法律で「公共交通」と認められた私たちの責務だ。