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人格権理解せぬ吉村市長
2019/02/15

 ひげを剃ることを拒んだため人事上の不利益処分を課された大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の運転士2人が、その不当性を訴えた裁判の判決が1月16日にあり、大阪地裁(内藤裕之裁判長)は「ひげを生やすかどうかは個人の自由で、ひげを理由にした人事評価は人格的な利益を侵害し違法」とし、賠償金の支払いを市に命じました。吉村洋文市長は判決を不服として控訴する方針を示しています。

 2012年4月、「大阪市職員基本条例」が施行されると大阪市交通局は地下鉄の「乗務員執務要領」を改正するとともに「職員の身だしなみ基準」を制定。男性職員の「顔・髭(ひげ)」の項目では「髭は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」と規定されました。そして、基準に違反した職員に対しては、上司から指導が行われ、それでも改善が見られない場合には人事考課に反映されることになりました。
 原告2人は、ひげをたくわえて乗務したことを理由に人事評価を低評価とされ、賞与が減額されるという不利益を被りました。うち1人はひげを理由に2年連続で最低評価区分とされました。「職員基本条例」の規定では降任または免職の分限処分を受ける可能性が生じます。
 労働者側勝利判決に対し、吉村市長はツイッターなどで「なんだこの判決。控訴する」と感情的な反応を示し、「旧市営交通はサービス業。身だしなみ基準を定め、そのルール自体が合法」「守らなくていいなんて理屈通らない。身内の倶楽部じゃない。公務員組織だ。お客様の料金で成り立ち、トンネルには税金も入ってる」と主張しています(1月17日)。

過度の拘束認められぬ

 過去にはハイヤー運転者が、「髭を剃ること」と明記された社内ルールに抗して裁判を起こした例があります(イースタン・エアポートモータース事件・東京地裁1980年12月15日判決)。裁判所は「(ハイヤー業は)服装、みだしなみ、言行等が企業の信用、品格保持に深甚な関係を有するから、他の業種に比して一層の規制が課せられるのはやむを得ない」としながらも、社内ルールの「髭を剃ること」については「不快感を伴う『無精ひげ』とか『異様、奇異なひげ』を指しているものと解するのが相当である」と判断、労働者側勝利の判決を下しています。
 郵政事業労働者が勝訴した同様の裁判(神戸地裁2010年3月26日判決)でも、裁判所は社内ルールについて「労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められるというべき」「『顧客に不快感を与えるようなひげ及び長髪は不可とする』との内容に限定して適用されるべき」としています。

労使関係を正常化せよ

 そもそも、サービス業の労働者が“ひげを生やしてはならない”という考えはどこから来るのでしょうか。一般的に飲食店や理美容店でも、ひげをたくわえている店員は珍しくありません。「身だしなみ」というのなら国会議員や実業家のひげも許されないはずです。吉村市長が労働者階級に向ける眼差しにも問題があると言わざるを得ません。
 人格権を侵害する命令に労働者が異議を唱えるのは当然です。労働契約は奴隷契約ではありません。労使でよく話し合い、ルールを双方が納得できる内容に改正するという考えは吉村市長になく、この姿勢は維新型政治の自治体で共通しています。
 人権侵害の強権発動を可能にする「職員基本条例」を改正するためにも、統一地方選挙に向けて維新政治ノーの声を大きく拡げましょう。(参照=Yahoo!ニュース「弁護士 佐々木亮の労働ニュース」1月19日付、民主法律時報2016年4月号)